踏みしめる、この大地の

夜にもなれば、気温も下がって少しは涼しい風も吹く。 こっそり家を出た夜は、なんだか不思議な気分になる。 昨日通ったこの道は、相変わらず当たり前の道路で、 何も変わらないことが怖かった。 午前0時、北犬塚公園。 誰も来ないし、何もおきない。 近くに落ちていたゴミを拾って、握りつぶす。 手からはやっぱり木が生まれて、それを確認すると、そこに植えた。 「やっぱり此処に来てたんだ」 ため息交じりのその声は、公園の入り口に立っていた。 「・・・お前こそ、こんな時間にどうしたんだ」 「あんたとおんなじよ」 「そうか」 二人並んで夜空を見上げると、言葉を失くして沈黙が続いた。 「昨日のほうが、星、きれいだった」 「うん」 「満月も、端っこ欠けちゃったね」 「うん」 「雲も多いし、明日は晴れないかもね」 「うん」 「此処に来れば、逢えるかもって、思ったの?」 「・・・思ってない」 「けど、」 じゃり、と砂を鳴らして踏んで、公園の真ん中に立つ。 そこは昨日、最後に別れた場所で。 「逢いたかった・・・」 理由も何もない、ただただ、どうしようもなく逢いたいと思って。 叶わないと知っていながら此処にいる矛盾。 「・・・でも、いいんだ。逢えないって、それを確認しに来たんだから」 「え?」 「自分の意思を、誓うために来たんだ」 もういないからこそ、代わりにやらなきゃならない。 あの正義を貫くために。 「そのわりには、あんたヒドイ顔してるよ」 「・・・え?」 腕を伸ばして、子供をあやすように、頭をぽんぽんと叩かれた。 「・・・・・・?」 「泣きたいなら、そうすればいいじゃん。なんか、その顔見てらんない」 「べつに、泣きたくなんて・・・」 本当に、泣くために此処に来たんじゃないし、涙なら夕方あらかた出し尽くしてしまった。 「・・・あ、れ?」 それでも頬は濡れて、一度そうなればもう止まらなかった。 なだめるように髪をなでられて、そのせいだったのかもしれない。 他人の体温を感じたくて、ただ無性に甘えたくなって、それを許してくれると思ったから、 目の前の少女に手を伸ばした。 「えっ、あ、ちょっ・・・何・・・!」 腕の中の体温は小さくて折れそうで、それでも構わなかった。 たぶん、苦しかったと、思う。 それなのに、黙ったまま、そのままでいてくれて、背中を叩いて、こう言った。 「大丈夫だよ、あんたは私が守るから」 「・・・フツー、逆じゃないのか」 「これでいいの」 「・・・そんなら、オレも守るよ」 『コバセンがいない分も』 2006.3.22 back