――青と白のその先に Scene:02 駆け出す扉

「卒業アルバムとは考えたわねー」 わたしたちは近くの喫茶店に入って、話をすることにした。 クリームメロンソーダをストローでつっつくと、氷がカラカラと良い音をたてる。 「お前は開こうとは思わなかったのか?」 こんな真昼間からビールを頼もうとするのを制することに成功したわたしの目の前には、 コーヒーと灰皿がある。 うわ、体に悪そー・・・。 「うん・・・なんか、怖くて、さ」 そう、怖かった。 いつものわたしならそんなことは思わないで真っ先に開いて調べて、 今頃はもうスッキリ解決してるはず。 そのはず、なんだけど・・・ 「わたしにとって大切な人って、どのくらいいたんだろう」 「さあな。少なくともここに一人、いるじゃねえか」 「ちょ、ヘンなこと言わないでよね!」 「照れるな照れるな」 ニヤッと笑うその顔に、理由もわからず頬があつくなる。 そんな訳ないよね? さっき会ってからそんなに時間は経ってないけど、わかる。 きっと生徒に人気があったんだろうな、って。 だから、この人のことを忘れてるのって、 担任の先生だから、だよね? 「気になるんなら、アルバム見てみろよ」 「先生はさ、どうだったの?アルバム見て」 「まあほとんど覚えてなかったな。つうか”先生”はやめろ」 「はぁ?なんで?先生でしょ?」 「覚えてる限りじゃオレのこと”先生”なんて呼ぶ奴ぁいなかったぜ。 ガキどもはオレのこと”コバセン”って呼ぶからよ」 「コバセン・・・ねぇ。ま、いいけど」 コバセンはきっと生徒一人一人のことを大切に思ってたんだ。 だから忘れてしまっても、もう一度取り戻そうって決めたんだ。 怖くてアルバムも開けないなんて、臆病だ、わたし。 そうだよ、こんなのわたしらしくないよ。 勢いよくテーブルを叩いて立ち上がる。 クリームメロンソーダはまだ残ってるけど、そんなのおかまいなしだ。 「学校に行けば、まだ何かわかることもあるよね?学校行こうよ!」 「あぁ?今は春休みだぞ、鍵だって」 「だ・か・ら!コバセンがいるんでしょ?」 「・・・へいへい使いっぱですかオレは」 「そーと決まればレッツゴーよー!!」 こうしてわたしたちは学校へと向かった。 怖くても、開くしかないんだ。 本当にこの人がわたしの大切な人なのか。 それとも、他にもっと大切な人がいたのか。 コバセンの手をひっぱって学校へと走る。 あんまりひっぱるなってめんどくさそうに言っているけど、手を振り切ろうとはしない。 いつしかその手は引っ張られているだけじゃなくなっていて、 しっかり握り合って、離れることはなかった。 そこから少しでも記憶が戻ればいいと、本当にそう思って、 つよく、つよく、握りしめたんだ。 2006.3.31 next back